人間ドック・健診Q&A

基礎知識や施設選び・受診のコツ、検査結果の活かし方まで人間ドック・検診にまつわる、気になること、わからないことを集めました。

人間ドック・健康診断・がん検診の基礎知識編

Q

何歳まで人間ドックを受けるべき?

今年70歳になりました。健康には気をつけているつもりですが、何歳ぐらいまで人間ドックを受けていればいいでしょうか

A私どもの健診センターには、90歳や100歳近い方も人間ドックを受診されます。
それはそれですばらしいことですが、異常が見つかっても大きな手術に耐えられるだろうか、という疑問が出てきます。また、たとえ手術に成功して寿命が延びたとしても、術後に寝たきりになったのでは、本当に幸せな人生とはいえません。QOL(生活の質)は、大きく低下してしまうでしょう。
平均寿命(男性79.19歳、女性85.99歳:厚生労働省平成19年簡易生命表)まで生きたということは、「今までの生活習慣は間違っていなかったから、このまま続けていいですよ」ということです。ですから、平均寿命を区切りにして、人間ドックを卒業してもよいのではないかと思うのです。
平均寿命を超えた方には、人間ドックよりもむしろ、かかりつけ医を決め、日ごろの健康管理や体調不良のケアをしてもらいましょう。
人間ドックの受診よりも、寝たきりにならないように足腰を鍛えたり、転倒を予防するために生活環境を整えたり、認知症を予防するために趣味などを通して社会的な活動を続けたりすることが重要です。
そして、「どれだけ(長く)生きるか」よりも、「どう(質)生きるか」を大切にしてほしいものです。
Q

乳房にしこりがあるが、人間ドックを受けるべき?

胸にしこりのようなものがある気がします。これまで特に乳がん検診なども受けたことがないのですが、一度受けたほうがよいのでしょうか

A「乳房にしこりがありますが、人間ドックを受けたほうがよいでしょうか」という質問をよく受けます。
特定の部位に異常が自覚・発見された場合は、人間ドックなどの検査ではなく、すぐさま、専門の科で検査を始めなければなりません。「乳房にしこりがある」、「胃が痛い」など明確な症状があって、原因を探すために人間ドックを受診するのはナンセンスです。
ただ、「体がだるい」「疲れやすい」「全身が熱っぽい」など全身的な症状がある場合に、全身的なチェックという観点で、人間ドックを受診するのはよいでしょう。
Q

被ばくするなら検査を受けたくない

X線による被ばくが心配です。健康に不安がないなら、むしろ検査を受けないほうがいいのではありませんか

A検査で用いられるX線の被ばく量は、いずれも安全値よりもぐっと低く抑えられていますから、あまり心配する必要はありません。とはいっても、医療放射線が原因で起こるがんもあるといわれています。
人間ドックや健診はもともと健康な人のためのものですから、診断や治療のために受ける放射線とは違うものと考えるべきで不必要な被ばくはできるだけ最小限とすべきです。
Q

人間ドックだけじゃなく、がん検診も必要?

人間ドックだけでなく、がん検診も受けたほうがいいのでしょうか? なぜがん検診を受けたほうがいいのでしょうか

A日本人の三大死亡原因は、がん、心臓病、脳卒中ですが、心臓病と脳卒中は同じく血管の病気で、原因や予防法がかなり明らかになっています。それに対して死因第1位のがんには、十分な予防法はありません。
さらに、以下に挙げたような理由から、がん検診が、日本人の有病率や死亡を減らす上で重要なのです。
[がん検診の重要性]

がんは、身体のどこに、いつ発生したか分からないうちに、進展していく
初期のうちは無症状。自覚症状で気が付くがんは、進行がんになっていることも
がんセンター中央病院において、死亡患者の70%は、発見時にすでにIII、IV期
がん死亡を減らす上での目標
▲受診率60%をめざす
▲精度管理をする
Q

アレルギー体質だが麻酔は大丈夫?

アレルギー体質で、麻酔アレルギーが心配です。内視鏡検査の時の麻酔は大丈夫でしょうか?

A麻酔アレルギーとは、歯科医などで使う局所麻酔の塩酸リドカイン(キシロカインR)にアレルギーのある人のことです。リドカインアレルギーが生じると、血圧が急激に下がったり、呼吸が苦しくなったり、まれにショック症状を起こしたりします。もともと何かのアレルギーを持っている人は、麻酔アレルギーがあるか、事前にチェックしなければなりません。
胃内視鏡検査でもキシロカインRを用いますから、この薬にアレルギーの人は検査ができません。内視鏡検査の事故は極めて少ないとはいえ、内視鏡の器具や処置に伴う合併症より検査の前のキシロカインの副作用の頻度のほうが高いとされています。
また、胃内視鏡検査とは違いますが、CT検査などで造影剤として使われるヨードにもアレルギーのある人がいて、毎年何人かは死亡例が出るほどです。
何に対してでもアレルギーがある人は、必ず検査を受ける前にきちんと申告して、事故を防いでください。
Q

胃の内視鏡はどんな検査で、どんな効果があるの?

胃の内視鏡はとても苦しいと聞いて、受診が不安です。どのような検査で、どんな効果があるのでしょうか

A胃の内視鏡は、従来に比べればずいぶん径が細くなって、楽に飲み込めるようになっています。最近では、鼻から挿入する直径5mmのさらに細い経鼻内視鏡も登場しており、これだと飲み込む必要がありません。しかし、細径の内視鏡はまだそれだけ画質や精度が劣ることが多く、どの内視鏡がよいのかも悩むところです。
胃がんの集団検診で厚生労働省が勧めているのはX線写真(胃透視検査)ですが、国立がんセンターのがん検診ドックでは胃は内視鏡検査が基本になっています。多くの健診施設ではどちらかを選択できます。
一般に、早期発見し根治できる早期胃がんの発見率は、内視鏡検査の方が2~3倍高いとする報告がこれまでのところ多いようです。また胃透視で異常を疑われても精密検査は胃内視鏡でおこないますし、検査時に実際に疑わしい部分があればその場で組織採取して病理検査もできる点も内視鏡検査のメリットです。内視鏡検査が苦手でない方には胃透視検査よりおすすめできると思います。
Q

大腸がんを調べるなら、どんな検査?

大腸がんについて不安がある場合、どんな検査を受けたらよいのでしょうか

A大腸がん検診では、便潜血検査がスクリーニングとして行われます。この検査の有用性は医学的に十分な根拠が示されていて、さらにコストも低くてすみ、ほとんどの人間ドックでは基本的検査に含まれています。さらに大腸内視鏡検査を加えることもできる場合があり、これを受けるかどうかが悩むところでしょう。
大腸の進行がんでは、60~70%が便潜血検査で引っ掛かります。しかし、早期大腸がんの70~80%、進行大腸がんでも20~40%が陰性になる(=検出できない)という報告もあり、限界も明らかになってきています。大腸がんは、胃がん、乳がんなどと並んで、早期発見・早期治療によって生存率が高くなるがんの一つですから、早期発見は極めて重要です。
お尻から内視鏡を入れるなんてごめんだという人が少なくないのですが、熟練した医師にかかると5分から10分で内視鏡を盲腸の辺りまで入れることができます。普段は便潜血検査で、一定の年齢を超えたら5年に一度、内視鏡検査を受けるなどの方法が望ましいでしょう。
Q

脳ドックではどんな病気がわかるの?

脳ドックを受けたら、どんな病気がみつかるのですか。脳の異常はドックを受けなければいけないほど多いのでしょうか

A私どもの調査では、脳ドックを受けた約5千人の成人(平均年齢55~60歳)のうち、頭部MRIでは3分の1近くの人に、頭部MRAでは平均8%の人になんらかの異常が見つかっています。しかしその異常は気にしなくても良いものも含まれます。
よく見つかる異常には、日本人では次のようなものがあります。


自覚症状がない“かくれ脳梗塞”
受診者の約5~10%にみられた異常です。 本人も家族も気づかないうちに、脳の普段あまり働いていない部分にできた梗塞です。特に血圧が高い人は、この梗塞が見つかる頻度が高くなっています。 かくれ脳梗塞を放っておくと、将来認知症になったり、本当の脳梗塞になる確率が、ない人に比べ高くなるといわれています。


破裂していない脳動脈のこぶ(動脈瘤)
受診者の4~5%に見られました。 くも膜下出血を起こした家族がいる場合は、確率が高くなります。大きな動脈瘤は放っておくと破裂して、くも膜下出血を起こす可能性があります。


脳の血流障害(白質病変)
高齢になると脳の血管にも動脈硬化が起こりやすくなります。そのために脳室の近くや脳の深い部分に血流障害が起こり、脳の組織が多少変化します。大体13~20%くらいの人にみられますが、これも将来の警戒警報と考えてよいでしょう。


そのほか
5~8%の人に、軽い物忘れや首の血管の動脈硬化が見つかることがあります。まれに、脳腫瘍や血管の奇形などが見つかることもあります。
Q

脳に不安があるときはどうすればいい?

風邪も引いていないのに頭痛がすると、脳に異常があるのでは? とすごく不安になります。脳ドックを受けたほうがいいでしょうか

A脳ドックは、1980年代に日本で始まった脳の健康診断です。CTやMRIなどの開発によって、痛みを感じることなく脳の検査ができるようになって普及しました。
当初は、検査内容も、発見された異常への対応もあいまいで、一部には「脳ドックを受けると、かえって心配が増える」ともいわれていました。最近は日本脳ドック学会のガイドラインもできて、「脳ドックは有用」という認識が高まってきています。
特に次のような人には、脳ドックをおすすめします。

50~55歳以上の人
くも膜下出血を含めて、脳卒中になった家族がいる人
高血圧や糖尿病、脂質異常症(高コレステロール血症・高中性脂肪血症など)の人、メタボリックシンドロームの人

など。ただし、ご質問の方のようにすでに何らかの症状がある人は、脳ドックではなく、病院を受診されたらよいと思います。「ときどき頭が痛くなる」「高血圧や糖尿病があり目まいがする」なら神経内科、「最近物忘れがひどい」などの場合は神経内科や精神科の「もの忘れ外来」などへ。担当医が必要と判断すれば、健康保険を使ってMRIなどの検査を受けられます。
Q

家族に禁煙させる方法は?

父がヘビースモーカーで、父はもちろんのこと、家族の健康も心配です。禁煙をすすめたいのですが、良い方法がありますか?

A家族にタバコを止めさせたい場合は、本人の禁煙の自信が低くても、止めようと決心することが大事だと思います。喫煙者は、長年習慣として身に付いた、箱からタバコを抜き取る、口にくわえる、火をつける、などタバコを吸う一連の行動によって安心感などを味わっています。そのため、せっかく禁煙によるつらい離脱症状が完全になくなっても、何かのきっかけで吸い始めてしまうことがあるのです。
そこで、このような相談を受けたとき、私は患者さんに4匹のカエルをおすすめしています。


1.環境をカエル
(喫煙グッズをすべて処分する。吸いたくなる場所を避ける。タバコの自動販売機の前を通らないようにする。など喫煙のきっかけとなる環境を改善する)

2.行動パターンをカエル
(食後、長く座ったままでいない。アルコールやコーヒーを控える、洗顔・朝食など朝の支度の順番を変えるなど、行動パターンを変える)

3.置きカエル
(タバコが吸いたいときは深呼吸をする、糖分の少ないガムを噛む、手持ちぶさたの時は家の片付けなど、吸いたい気持ちをほかのものに置き換える)

4.タバコのイメージをぬりカエル
(ストレスをやわらげてくれる、食後の一服は至福の喜びだ、など自分の中に作られたタバコに対するプラスイメージを転換する)

4つめの「イメージをぬりカエル」について詳しく説明すると、喫煙者は行動と認知の2つが原因で、タバコを吸う人はタバコのメリットを過大評価してデメリットを過小評価する傾向にあります。
例えば、「タバコを吸うと病気になるのはわかっているけど、みんなが病気になるわけではない」「タバコを吸うと必ず癒される」というような感じです。「タバコを吸うと必ず癒される」というイメージは、ニコチン不足による離脱症状が喫煙によって一瞬解消されるだけのことで、ストレス回避行動であるはずの喫煙が、次のストレス状態を作っています。ところが作られたプラスイメージがあるとやはり止められず、止めて数カ月経っても吸いたい気持ちが起きてくるので、認知をぬりかえてあげるなどの協力も必要です。
もちろん近くの禁煙外来を探して紹介してあげるという方法もあります。
Q

受診前は食事や運動など、気をつけたほうがいいでしょうか

仕事が忙しく、生活が不規則で、このまま人間ドックを受けても悪い結果になってしまいそうです。やはり受診前は食事や運動など、気をつけたほうがいいでしょうか。

A「要精検」や「要再検」という結果を見たくないために、人間ドックや職場の健診の前になると、人が変わったように急に節制した生活に切り替える人がいます。受診1カ月ほど前からお酒をやめ、脂ものを控えたりします。突然減量を始める人も、少なくありません。こういう人は、「異常値が見つかって、再検査などでまた時間をかれるのがいや」「会社の記録にヘンな数値を残したくない」と言います。
人間ドックは、病気を早期発見するために行われますが、同時に、長い目で見て自分の今の生活が健康で長生きするために適切か、何か問題がないかなどを知る場でもあります。つまり、良くない生活習慣を変えるきっかけとする場でもあるのです。
できれば普段の生活のままで受けることが、本来の人間ドックの趣旨に沿います。しかし、反対に、直前の多少の節制だけで、数値が基準内に収まるのであれば、大きな問題はないともいえます。そういう人は、自分の普段の生活のどこが悪いのかを、知っているということでもあるわけです。
そうした自分の生活習慣が数値を変動させるということは、それを長く続けていれば、中性脂肪が上がったり、血糖値が上がったりしてしまう原因になるということでもあります。
直前の食事や飲酒が検査数値に反映されるものには、表のような項目があります。
例えば、γ-GTPは数日前の飲酒を反映し、中性脂肪は24時間内の食事を反映しますから、飲酒をやめ、高カロリー食や脂肪を減らせば、これらの数値は少し下がります。
逆に、前日に飲み過ぎたり、脂肪の多いものを食べたりすると数値が高めに出ることがあります。
せっかくお金を使って、時間を割いて受けるのですから、無駄にしないためにも、検査に際しての指示を守って、正しい結果が得られるようにしたほうがよいと思われます。
Q

婦人科検診は、何歳から受ければいいですか?

昨年12歳で初潮が始まった娘に、将来いくつになったら婦人科検診に行くようにすすめたらいいでしょうか?

A性行為を経験するようになったら、性感染症やクラミジアの検査を受けたほうがいいでしょう。また初めての性行為から5年前後経ったら、子宮頸がんの検査を受けましょう。子宮頸がんの検査は、子宮の入り口にあたる、子宮頸部の細胞組織を少し採取するだけで、痛みはほとんどありません。また、初潮から20代前半までは、卵巣機能が成長途中にあり、月経困難症などで、月経時に強い下腹部痛や腰痛を訴える女性も多いので、あまり我慢させずに、気軽に婦人科に相談するよう、同性である母親からアドバイスしてあげましょう。また、初潮をきっかけに婦人科のかかりつけを作るなど、婦人科を受診する習慣をつけてあげることも大切です。
Q

胃カメラとバリウム検査は、どちらがいい?

胃痛が続いて気になるので、検査を受けたいのですが、時間がなく、胃カメラ検査かバリウム検査のどちらかだけを受けたいと思います。どちらを受けたほうがいいのでしょうか?

Aどちらにも長所と短所があります。上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)は、検査中ずっと内視鏡を食道や胃の中に挿入しているため、異物感や痛みなどを伴いますが、食道や胃の内壁のようすを細かくチェックすることができ、ごく小さな腫瘍なども発見できます。上部消化管造影X線撮影(胃バリウム)は、胃の内部をX線で撮影するために、バリウムという造影剤を飲まなければなりませんが、胃カメラのような検査中の異物感などはありません。撮影中に息を止めたり、動かないように指示されますが時間は3分ほどで済みます。ただ、バリウム検査で異常があれば、次は必ず胃カメラ検査を受ける必要があります。言ってみれば、バリウム検査は胃カメラ検査が必要かどうかのスクリーニング(選別)検査的な位置づけになりますので、その点を踏まえて選ぶことをおすすめします。